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ホームスクーリングについて本当に考えるべきこと

何かとホームスクーリング(学校に通わない家庭中心学習)が話題になっていますが、「ホームスクーリング」が良いだの、「学校に行かないこと」が悪いだのといった議論は教育の本質から外れている気がしてなりません。私自身、不登校の経験があることからも学校や教育の意義について何度も考えたことがあります。現状の日本の教育制度には思うところがあり、今の仕事をしていなければ教育者になりたいと思っているほどです。

 

ホームスクーリングについて本当に考えるべきことは他にあります。1つめは、「学校に行かないことをどう捉えるか」。2つめは、「ホームスクーリングの環境をどのように整えるのか」。今回は、この2つを中心に私見を述べます。

義務教育についてどう考えるか?

本題に入る前に、親が子供に小中学校へ行かせないことは義務教育に反しているか、という問題についても少し考えてみます。義務教育とは、「普通教育を受けさせる義務」であることから、教育は必ずしも学校で行う必要はないようです。子が学校に行かないことを望み、親が子供に家庭で普通教育を受けさせる環境を整えられれば法には触れていないことになります。

 

「法で決まっているから教育を受けさせなければならない」という考えは、教育の本質ではないかもしれません。ただ、法で縛らないと、教育を受けさせない家庭が増える可能性はあるでしょう。最低限の教育を受けない子供が増えれば、社会に適応できな人間が増えることにもなりかねないので、義務教育が存在する意味はあると考えられます。ただ、そんな義務教育に関する法律は2つの穴があります

 

1つめは、親が子供に普通教育を受けさせているかは外側からわからないことです。家庭内の教育内容を詳細に報告する義務は存在しません。親が「勉強をしています」と言ってしまえばそれまでなので、実質家庭学習をするフリでも成り立ってしまうのです。

 

2つめは、親が子に「学校へ行かないことが正しい」と刷り込みが出来てしまうことです。子どもは幼ければ幼いほど、基本的に親の言うことを正しいと思って育ちます。そのため、親が「学校が悪」と教え込めば、子にとっても「学校は悪」になります。つまり、子供が自らの意思で学校に行きたくないと言わせることは簡単なことなのです。

テーマ1:「学校に行かない」ことについて

私自身、不登校だった時期があります。高校を年間で100日以上欠席し、退学も考えました。理由は、良好な人間関係を築けず、楽しくなかったからです。結果的には、親に説得されて高校を無事卒業し、大学にも入りました。大学も卒業し、企業勤めもしましたが、高校や大学に行ったことに対してポジティブには捉えていません。予備校に比べて学校の授業はつまらなく、社会経験をしていない多くの教師に対して思うところもありました。ペーパーテストで能力を図り、暗記学習で差をつける教育制度に不満を抱く面もあります。

 

これまで、中卒や高卒で会社を起こした立派な実業家とも交流を持ちました。小学校に通わなかった社長にビジネスの教えを乞うたこともあります。下手な大卒よりも礼儀もきちんとしており、熱意を持って仕事をしている高卒未満の学歴の人はたくさんいました。私自身、難関大学と呼ばれる大学を卒業しましたが、その肩書きの恩恵を受けずに高卒でも入れる企業に就職し、今では独立して仕事ができています。私の人生において「学校へ行く」ことは決して有意義なものではありませんでした。別に、学校へ行かなくても問題ないと考えています。

 

しかし、これはあくまで自身の経験を通して得た個人の価値観です。大学の恩恵を受けなかったからといって、大学の無価値さを説くつもりは毛頭ありません。なぜならば、客観的なデータを見れば、大学を卒業しておいた方が何かと仕事をするうえで便利だからです。高卒よりも大卒の方が仕事の幅は広がり、給料も高くなります。今日の日本では、高卒で損をすることはあっても、大卒で損をすることはないのです。「学校に行かない」ことを選択してもいいとは思いますが、推奨するわけではありません。大学に行かない生き方を無責任に推奨することは、下手なギャンブルを推奨するようなものに等しいからです。

 

義務教育の時期を外れた高校と大学の話をしましたが、小中学校の場合も「行く」「行かない」の選択ができる点では変わりありません。下手に「行かない」を選択することは、子供の人生の幅を狭めてしまいかねないからです。いじめや精神的な問題から不登校になってしまい、その出口として「学校に行かない」で家庭学習をするホームスクーリングという考え方はあって然るべきでしょう。ただ、問題なのは「学校に行かない」が一人歩きをしてまうことです。学習の入り口としてホームスクーリングが存在してしまうと懸念点が浮かび上がってくることも忘れてはいけません。

テーマ2:ホームスクーリングの環境をどのように整えるのか

ホームスクーリングのメリット・デメリットについてここでは詳しく語りません。わかりやすい記事がたくさん存在しているので、知りたい方は「ホームスクーリング メリット デメリット」で検索してみてください。

 

ホームスクーリングの考え方そのものに善や悪はありません。ホームスクーリングが悪というのは、包丁が悪と言うのと変わりません。包丁を人ではなく食材に向けるように、ホームスクーリングをどのように活用するかが問題なのです。正しいホームスクーリングの活用には大きく以下の3つの条件が必要になります。

 

  1. 学校同等もしくは社会に適応できるくらいの学習能力
  2. 親による偏った学習や思想がなされないこと
  3. 学校で学べるような社会性を補填できる環境

 

1については、家庭教師やオンライン学習をすればまかなえるでしょう。ただし、ある程度の費用がかかってしまいます。学習項目や配分などを決める判断も必要なため、親にはある程度の教養が求められるでしょう

 

2や3について思っている以上に難しいかもしれません。海外では特に人種や宗教の問題があるので、1つの家庭で教育を完結させると他文化への理解が難しくなることが指摘されています。日本では問題ないかというとそうではありません。同世代の価値観、友だちとの喧嘩や仲裁、理不尽な先生、つまらない授業、厳しい部活、努力と緊張を味わえる受験。良いことも悪いことも経験するのが学校です。必要なものだけ取捨選択をしている世界になれてしまえば、耐える力や乗り越える力が身につかないかもしれません

 

1~3が学校に行けば完璧に身につくかといえば、そうではありません。けれども、ホームスクーリングよりは学校に行かせたほうが、現状の日本では間違いなく身につく確率が高いことは間違いないでしょう。もともとホームスクーリングは貴族や裕福な家庭からはじまったものです。お金や人材がある前提でなされた教育でした。王族であれば厳しい世界を残り得るための帝王学も学んだでしょうし、貴族であれば嫌な世界と触れ合わない生活が約束されていたかもしれません。一般家庭でホームスクーリングに適した環境づくりが簡単でないことは想像に難くないでしょう

 

ホームスクーリング児の学力テストは平均的に15~30%スコアが高いというデータが出ているようです。ただこのデータが、ホームスクーリングをすれば頭が良くなることには直結しません。環境が整った家庭がホームスクーリングを選択した結果のデータだと考えるのが妥当ではないでしょうか。それであればまずは、ホームスクーリングの利点を声高に叫ぶ前に環境の整え方に注目すべきではないでしょうか

 

学校へ行かず、ホームスクーリングを実施することは個々人の判断でしょう。ただ、それを周りに推奨するのであれば、同時に勉強方法や環境の整え方も教えなければ無責任とも言えます。それほど、ホームスクーリングには教育に失敗する要素もはらんでいるのですから。

 

「学校に行かない」は善でも悪でもあってはならない

大切なのは、物事を多面的に捉えることです。「学校は善」「学校は悪」と一面だけでしか捉えないは、思考の幅を狭めたり、偏った価値観の植え付けにつながったりしかねません。「学校に行かない」ことは、善でも悪でもありません。今はどちらかというと「悪」のような風潮があるかもしれませんが、「善」になってしまうこともまた問題なのです。「学校に行くか、行かないか」よりも、「学校であれ、家庭であれ社会に適応するための教育環境を整える」ことが大切なのではないでしょうか。

 

不登校の出口としてのホームスクーリングは、子どもの絶望を救うことにつながるかもしれません。しかし、教育の入口としてホームスクーリングは、子どもの希望を断つことになりかねない恐ろしさもあることを認識しなければなりません。ホームスクーリングを選択する親にはそれなりの費用、教養、人脈、覚悟が伴わないといけないのですから。

 

たとえ、ホームスクーリングで成功したとしても、そのノウハウを世間に提供できないのであれば、学校に行かないことを肯定的な意見として流布することは社会にとって決して良い影響ではないような気がしてなりません。


投稿者プロフィール

編集長・清水
編集長・清水
編集プロダクション雨輝の編集長。文筆業一家に生まれ、初めて編集業務に携わったのは14歳。Webライターたちの質の低さに失望し、業界を底上げすべく2014年に編プロを設立。日々、Webと紙媒体の狭間で日本語にこだわり続ける。趣味は映画・ドラマ観賞と旅。海外ドラマを語らせたら三日三晩トークが止まらないので要注意。日本は1.5周済。ひそかに文学賞を狙っている。
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